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筆跡鑑定人ブログ

筆跡鑑定人ブログ−23

筆跡鑑定人 根本 寛


 このコーナーに書くのは、事実に基づく、筆跡鑑定人の「独り言」 のようなものです。
お気軽にお付き合いいただければ幸いです。
 ただし、プライバシー保護のため必要と思われる固有名詞は仮名にし、内容によって
はシチュエーションも、特定できないよう最小限の調整をしていることをご了解ください。


三浦和義の筆跡


「ロス疑惑事件」三浦和義の筆跡

 平成20年2月、旅行先のサイパン島で「ロス疑惑事件」の三浦和義が逮捕された。ロス市警の要請でロスへの移送が予定されているという。
 某テレビ局の依頼で彼の筆跡を鑑定した。鑑定の目的は二つ。一つは、当時、入院していた一美さんの面会日誌(見舞者が氏名やメッセージなどを残すもの)に書かれている筆跡が、彼のものか否かを判定すること。
 一美さんは、人事不省の状態で10ヶ月入院していた。その間、三冊にもなる面会日誌には、三浦和義の名前のサインはあるがほとんど文章は書いていない。
 それが、一美さんが危篤状態になって初めて2ページになる文章を残している。三浦本人の筆跡かどうか鑑定してくれというのはその文章である。対照するのは、三浦がいわゆる小菅留置所……正しくは東京留置所だが……から発信した手紙の筆跡である。
 もう一つは、面会日誌の筆跡が三浦和義の筆跡であれば、筆跡からプロファイリング的に人物像を描いてくれとのことである。


10万人の4人の確率で本人筆跡と判断

 本人の筆跡か否かの判定は簡単だった。6点ほどの筆跡個性で特定したが、何といっても「和」の文字の稀少な筆跡特徴が一致した。図1は、三浦和義の手紙の筆跡。図1Aは、名前の「和」を拡大したもの。
 図2は面会日誌に残された筆跡で、図2Aはノートの書かれていた同じ「和」の字を拡大した。
三浦和義の筆跡
 この2文字は一見して酷似しているが、鑑定の角度から見れば、第1に「のぎへん」の第1画を、左から右下に運筆する標準とは反対の運筆。そして、第二に、のぎへんから「口」の字へと続け、その口の字を、時計回りの逆にクルッと丸く書いているという特徴がある。
 これはかなり個性的な運筆である。口の字を丸く書く人はまれに見るが、時計回りに運筆する人が多い。行書で書く運筆と同じ方向だからなじみやすいのだろう。しかし、三浦和義は、アルファベッドの筆記体で、「a」や「c」を書くのと同じ回し方である。「のぎへん第1画の逆運筆」と「口の字の逆回転」、この両方の筆跡個性を持つ者は30人に1人もいないだろう。
 その他の五つの筆跡個性も併せて異同を判定した。推定だが、10万人に4人の確率で同一人ということになった。


変わった行動傾向がありそうな筆跡

 つぎは、三浦和義氏の筆跡から、彼の人間像を描くことである。図1も図2も、今から25年ほど前の35歳ごろの筆跡である。比較的しっかりした文字で、わかりやすい筆跡である。あまり強い癖は見当たらない。
 あまり癖はないと言ったが、多少面白い筆跡個性もある。「頑張」という文字があるが、まず「頁」の文字。最後の左右の払いが本来の「ハ」の形にならずに、二本とも左傾した形になる。図2Aにはたまたま一文字しかないが、面会日誌には4回もありそれがみな同じ書き方だ。
 また「張」の「弓」の形も相当に個性的だ。第3画が横に運筆されずに上に折り返し、最後のハネは全くかかれない。どうみても「弓」とは読めない異形字である。このように、独特の変わった文字を書く人は、筆跡心理学的には普通とは異なる変った行動傾向を持つと解釈される。ただ、残念ながら、変わった行動傾向があるとしても、その内容までは分からない。
 つぎに、筆跡特徴としては、ここには取り上げていないが「本」や「文」など左右の払いのある文字の場合、その左右の払いが短かく直線的に書かれる。資料2の、下の行に書かれている「美」の文字でもその傾向がある。あるいは、「思」の「心」の部分、「速達」の「しんにょう」なども直線的である。また、その終筆部が「払う」形にならず、「グイと止める」優しさの感じられない筆跡である。


実務的で非情な感のある文字

 このように、「曲線が乏しく直線的な書き方」で、終筆部を「グイと止める」書き方をするということは、実務型の性格で情緒面は乏しい人に多い。
 直線で書くのは、誤まりなく目的を達成することを重視する「目的志向」の性格といえる。つまり目的達成に神経の集中した実務的な性格である。たとえば、曲線で柔らかく書くのは、美しくみせたいという気持ちの表れで、細やかな心遣いなど情緒面の発達した性格といえる。
 このように見てくると、三浦和義は、感情的な弱さなどはないタフなタイプ(非情ともいえる)で、欲しいものに向かってわき目を振らずに直進する、辣腕な弁護士のようなイメージである。
 「カズミ、カズミ」と泣いて訴えていた、当時のテレビ画像を思い出すと、非常に違和感を覚える筆跡である。

   
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