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筆跡鑑定人ブログ−35
筆跡鑑定人 根本 寛
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中田カウス事件の筆跡鑑定 (09−6− 3)
テレビ局からの鑑定依頼
朝、まだ寝ぼけまなこで仕事に掛かろうとしたら、中央のテレビ局2局から、鑑定の収録の依頼がはいった。中田カウス事件の脅迫文事件である。今日の夕方にお邪魔をするので撮影させてくれとのこと。承知してそのつもりでいたら午後になってストップとなった。 北朝鮮の核実験というビッグニュースが入ったのでお流れだという。よくあることで、仕方がないが、もう一つの理由は鑑定で使う「対照資料」が手に入らないということもあったようだ。 その後、5月26日の吉本興業の記者会見などを見ると、容疑者の対照資料は公開はされないようだ。私の経験から考えて今の時点でマスコミには公開はしないだろう。
そもそも、脅迫状が送られてきたのは4月上旬である。吉本興業の説明では、それを民間の鑑定所に依頼をし、その結果が出たので大阪府警南署に届けたということだ。これが何を意味するかといえば、その鑑定で脅迫文の送り手の容疑が固まったので、改めて刑事事件として警察に受理してもらったということだろう。
警察が乗り出すには何らかの物証が必要だ
もっと恐い事件もある。それは警察が自殺として処理した事件だったが、実の姉さんが弟は自殺などするはずが無いと、執念を燃やし何年も追及していた。そして、私のところに来てあるローン契約書を鑑定してくれといった。 その契約書は極めて巧妙な偽造だった。私は唯一の絶対的なポイントを発見して真実が判明した。実際は自殺ではなく、亡くなった夫の妻が愛人と共謀して殺害したというものだった。 鑑定の依頼者は、私を「神の目を持つ男」と甚だ大げさに賞賛してくれた。ともかく、この場合は、私が筆跡鑑定でローン申込書が偽造であることを立証し、警察の誤りに情熱を燃やしてくれた弁護士がいて初めて立件された。 中田カウス事件も、脅迫文の筆跡鑑定で裏付けられようやく警察も本腰を入れたのだろうから、事件解決までは鑑定の対照資料は公開されないだろう。
脅迫文は本当に犯人が書いたのか
つぎの図が、公開された脅迫文の筆跡である。私はこれを見て失笑してしまった。なぜなら、同一文字…例えば「して」や「ず」「だ・た」等の文字を見ると、極めて安定した筆跡個性で作為の形跡が全く見当たらないからだ。
もっと目立つ文字では「必」の文字もあるが、このように目立つ文字は作為を働かす可能性があり、いま一つ信用できない。その点ひらがなは作為があってもその意図から外れやすいので信頼性が高いのである。 このような脅迫文では、差出人がわからないよう筆跡に作為を施すことが多い。たとえば、神戸の「酒鬼薔薇聖斗事件」では、声明文が定規を使ったような字体で書かれていた。このように、自分の筆跡を変えてかくことを「韜晦」(とうかい)という。
筆跡鑑定人としては、その文字が韜晦文字かそうでないかを調べるには、まず、同じ文字を探してそれが不自然な変化をしているかどうかを検査する。本来の筆跡で素直に書いていれば筆跡個性は安定している。しかし、作為をもって書けば、筆跡個性は不安定になり不自然さが表れるからだ。
ところが、この脅迫文はどうも作為のない文字らしい。だから、もし、中田カウスの身近な人物の文字なら、「どうも○○さんの文字に似ているね」などと、簡単に身元が割れてしまうだろう。事実、中田カウスは奥さんがそういったと話している。
この推測が当たっているなら、この犯人は、筆跡鑑定人の存在を知らなかったのか、あるいは、近辺の人間には絶対にわからない誰かに書いてもらったのだろうか。吉本興業が「警察に届けた」ということから、どうやら後者ではなさそうだ。
そこで、ここでは、公開された脅迫文には作為がないと考えて筆跡心理学を応用して犯人の人物像をプロファイリングしてみよう。
脅迫文を書いた犯人はどんな人物?
さて、この筆跡を鑑定するとしたらどの辺りに着目すればよいでろうか。 まず、毛筆を使い、文字の癖は強いがある程度の書写技量もあることから、若者ではなく50〜70歳程度の男性と思われる。
次にAで指摘した「閉じた空間が大きい」という特徴から、年齢のわりに行動力のある人物、口の字なども左上の「接筆部」が閉じて、右上の「転折部」が角張っていることから、融通性はなく、白黒ハッキリさせたがる頑固な性格のようだ。文字間がつまっているので気の短さもある。
また、Eで指摘した「本」字や「告」字の「縦線の上への突出が長め」だから、自分の意思を通したいという気持も強いだろう。特に強い特徴としてDで指摘した「時」字や「待」字の「線の交差」がある。
このように、線を交差させたりぶつけたりするのは、普通の人は避けるものである。それが社会的なルールだからだ。しかし、このように交差させる人は「ズバッと交差させたほうがスッキリする」という気分があるらしい。つまり気が強いあるいは気が荒い人物といえる。
もう一つの特徴は、これだけ力のこもった運筆の人は、本来なら「ハネ」が強いことが多い。しかしこの書き手は「必」「野」「同」「崎」「俺」「視」「機」「待」など、どの文字を見てもハネは全然書かないタイプである。 ハネは、最後までしっかり力を抜かないという行動傾向で、我慢強さや責任感につながっている。そのハネを書かないということは、我慢をしたりじっくり考えたりせずに「思い込んだら即行動」という人物像が浮かんでくる。 つまりこの人物は、「白黒をはっきりさせたがり、気にいらないことには我慢できない頑固者、そして気が強く行動力がある」ということになる。 このようなタイプの人物なら、「自分の信念」や「勝手な思い込み」から、許せない相手に対しては、今回のような行動に出ても不思議ではない。 ……このように見てくると、脅迫文の書き手はプロファイリングの人物像と一致するようで、どうも「脅迫した本人が書いたもののようだ」というのが私の判断である。
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