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筆跡鑑定人日記

筆跡鑑定人日記−14

筆跡鑑定人 根本 寛


 このコーナーに書くのは、事実に基づく、筆跡鑑定人の「独り言」 のようなものです。
お気軽にお付き合いいただければ幸いです。
ただし、プライバシー保護のため、マスコミ報道された内容は別にして、固有名詞
は原則的に仮名にし、内容によってはシチュエーションも最小限の調整をしていることをご了解ください。

文部科学省への自殺予告文



このところ(18年11月)、文部科学省に届いた「自殺予告文」をめぐって、テレビ局などから多くの問い合わせがあり、日テレなど数局に出演した。
発信地は豊島区と報道された例の件である。予告文の内容は「イジメられている。11月11日に自殺する」というものである。
そこで、今回は、その差出人不明の宛名の文字から、私がテレビ局などにどのようにコメントしたかを説明したい。
テレビ局などの質問は、「書き手は子供か大人か」ということと「内容の信憑性」である。
このことに関して石原都知事は、テレビで「大人が書いたお騒がせの手紙」だと発言した。また、知事に近い都庁幹部は「都庁が独自に筆跡鑑定を依頼したところ、手紙は利き手で書かれたものではなく偽物だということがわかった」とも言った。(いずれも週間新潮11/23号) 鑑定人の私としては「ホンマかいな」といいたい感じである。

筆跡に作為の形跡は見当たらない。

図はその手紙の宛名書きの一部である。このような差出人不明の手紙に対し、プロはまずその筆跡に作為の形跡があるかないかを調べる。作為の有無は手紙の信憑性にも関係するからである。
まず、指摘したAとBを見ていただきたい。「文」の文字が3回、「大臣」の文字が2回書かれている。いずれも字画構成がよく似ている。これだけ筆跡個性が安定して出ていれば作為の意図はないと見るのが普通である。
したがって、都庁幹部が言った「筆跡鑑定をしたということ」、「利き手で書いたのではないという鑑定結果」については信用できない。利き手でない手でこれだけ安定した筆跡を書くことと、そんなこともわからないプロがいるとは考えにくいからである。

文部科学省への自殺予告文

書き手は高校生から大学生あたりか。

つぎに、指摘したCの箇所を見ていただきたい。いずれも「口」の字が、やや大きめに書かれている。このような「閉じた空間」を大きく書くのは子供の特徴といえる。しかし「やや大きめ程度」だから「子供そのものではないが、子供の書体の影響を引きずっている年代」というレベルといえそうだ。書字技量の低いことと合わせて、私は社会人ではなく高校生から大学生の程度とコメントした。

書き手はアイディアや融通性があるタイプ

つぎに、「口」「明」「書」などの文字の右肩の部分、つまり「転折部」が丸く、「ハネ」は極めて弱い。ここから言えることは、この書き手はアイディアや融通性があり、そして、呑み込みや行動は素早いが粘り強さはないタイプと言えそうである。どうも、自殺をするような生真面目タイプには感じられない。
以上を総合考察して、テレビでは、自殺予告そのものは信憑性に欠けるようだとコメントした。11月11日に発信人と思われる自殺はなかったが、その他の私の判断が正しかったかどうか、今後の判明が待たれるところである。

話数
筆跡鑑定人日記バックナンバー
第二十六話

円満紛争解決学

第二十五話

ハニカミ王子の筆跡

第二十四話

岡田監督の筆跡

第二十三話

三浦和義の筆跡

第二十二話

芸能人の筆跡あれこれ

第二十一話

コンピュータの鑑定は人間より信頼できるか

第二十話

堀江貴文・佐野厄除け大師の怪

第十九話

トイレ万札事件の主人公は?

第十八話 ぶるーくろすで虐待はあったのか
第十七話 誤字はダイヤモンド
第十六話 イジメと切れやすい子供の筆跡
第十五話 塩尻市男女変死事件
第十四話 文部科学省への自殺予告文
第十三話 冤罪を晴らす
第十二話 ドメスティック・バイオレンス
第十一話 畠山鈴香と酒鬼薔薇聖斗の筆跡
第十話 プロの目・アマの目
第九話 狙われた宮司の財産
第八話 遺言書偽造事件
第七話 鑑定における統計的なアプローチについて
第六話 1ヵ月に2回離婚した夫婦
第五話 他人が手を添えた署名は有効か
第四話 営業マンの犯罪
第三話 間違いのない鑑定依頼の方法
第二話 変体少女文字の怪文書
第一話 ちょっとした工夫で納得性を高める