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筆跡鑑定人日記−4
筆跡鑑定人 根本 寛
営業マンの犯罪
やられた!500万! ある地方のスーパーを舞台にした犯罪である。私はコンサルタントとして、今までに100店以上のスーパーに関与してきたので、相談の電話を聞いてすぐにピンときた。スーパーには様々な業種の営業マンが来ているが、中にはタチの悪い者もいる。今回の手口はこんな具合だ。 @ まず、商品を売り場の棚に自分で詰める。本来は店側でやるべきことだが、店員は忙しい ので売り手の営業マンがサービスすることが多い。 A つぎに、店の担当者に納品した商品をチェックしてもらい、数量のチェックと確認のサインを もらう。このとき納品書は切り離さずノート状態である。 B 最後に事務所に行き、納品書を提出し、検収の印をもらって退出。 以上が本来の作業である。この一連の過程の中で「一つ余計な仕事?」をするのだ。ど のステップで、どのようにするのかお分かりだろうか。
その手口とは 実は、営業マンは、AとBの間で「余計な仕事」をする。店内担当者のチェックをもらった営業マンは、一度自分の車に戻るなどして納品書に1行追加する。そして店員のチェックを真似てチェックのしるしを書き込み、何くわぬ顔でその納品書を事務所に届けるのである。 大抵のスーパーは店舗と事務所は別になっていて、店員は店を担当し、あまり事務所に顔を出すことはない。一方、事務員は事務員で店に顔を顔を出すことは少ないし、店員のチェックがあれば、伝票に特別注意を払うことなどしない。そこが盲点になっている。 タチの悪い営業マンは、納品したことになった商品を現金仕入れをしている別の店などに販売し、懐に入れるというわけだ。 この店では、社長が店長を兼ねていた。ある日、何気なく納品書を見ていた社長は、納品書に書かれた大量の納品に気がついた。 「???何だ!これは!」 自分の店ではこんなに大量に仕入れるはずがない。驚いて同じ問屋の納品書を調べてみると、出るわ出るわ、何と5年間に遡って怪しい納品書が100枚以上出てきた。さすが、社長もピンときた。「やられた!」社長の試算では、500万程度はやられているとのことである。
この他、チェックの角度の異なるもの、V字の角度が異なるものなど、調査した全ての納品書が大いに怪しい納品書である。 ただし、この違いだけで、筆跡鑑定上はクロだと断定するわけにはいかない。鑑定人にとっては鑑定書類が全てで、いくら状況証拠があろうともそれは別問題になる。このチェックの異同だけでは断定までは出来かねる。「可能性が極めて高い」とするのが精一杯のところである。 依頼者の社長に話すと、それで十分だという。その問屋とは長年の付き合いなので、責任を持って対応するという言質を取っているそうだ。「可能性が極めて高い」という鑑定結果と、状況証拠をもって交渉すれば解決できそうだとのことである。 ………ということで、この事件は一件落着である。小さなスーパーは慢性的に人手不足である。全員が非常に忙しく働いていて、防犯面などの警戒はいま一つである。そこに付け込む悪い輩も少なくないのである。
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