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筆跡鑑定人日記−3
筆跡鑑定人 根本 寛
間違いのない鑑定依頼の方法
誤った鑑定書は百害を招く 筆跡鑑定を頼もうというとき注意をしなければならないことがある。 筆跡鑑定の第一のポイントは、「正しい鑑定書」を手にいれることにある。もし、希望している鑑定結果であっても、それが万一、間違った鑑定書なら長い目で見て、必ず依頼者に不利益をもたらすからだ。 間違えた鑑定に対しては、相手は、正しいことに自信があるから泣き寝入りはしない。最後まで頑張って正しさを証明しようとするものである。 そのような立場の方で、さんざん探し回って私のところ辿りつかれ、汚名を晴らしてくれと懇願される依頼人の方も少なくない。私は年に10件程度は誤った鑑定書に対する「反論書兼鑑定書」を書いている。 誤った鑑定書を頼って係争に負ければ、長い年月とお金をかけ、さらには損害賠償の責を負うということになりかねない。 繰り返しになるが、まずは、正しい鑑定書を手に入れることが最大の眼目であると同時に、そのためには注意深く事を進める必要があることを知っておく必要がある。
鑑定人の技量について それでは、どうすれば正しい鑑定書を手に入れることができるのか‥‥言い換えれば、どうすれば誤った鑑定書を防ぐことができるのかについてである。誤りには二種ある。第一には鑑定人としての技量が不足しているケース。第二には、何であれ依頼人の望むままに鑑定書を書く鑑定人がいることである。 鑑定人の技量については、同じ鑑定人として私の口から言えることには限界があるが、一般論として、レベルの低い鑑定人がいることは事実である。たとえば図のような、ア、イの二つの文字があり、偽造の疑いがもたれているとする。このケースでは、かなり多くの鑑定人が「第一画(A)と最終右払いの形の違い(B)」を指摘して、別人と判定することがある。
私の判断とロジック 私は、このケースでは、「見の字の第三四画の形態(C)」に着目して、アもイも共に「中央に寄せて、かつ、短く書く」という筆跡特徴を重視し、同一人の筆跡の可能性が高いと判断する。 つまり、偽造が疑われている状況から考えれば、AとBのような、誰が見ても目立つ部分を、このように違う形に書くことは考えにくいところである。 一方、「見の字の横画のありよう」などは、大抵の人は無意識に書いていて、本来の筆跡個性(筆癖)が露呈しやすい部分と考えられる。 つまり、「見落としがちな微細な筆跡個性が一致する一方で、大きく目立つ部分が異なるという文字」は、「偽造ではなく本人だから書ける」と見るほうが無理がない。しかし、このようなロジックを無視して、単純に字画のうわべの違いに惑わされる鑑定人が少なくないのである。
依頼人に迎合する鑑定人 つぎに、もっとまずい問題として、何であれ依頼人の望むままの鑑定書を作成する鑑定人がいることである。 望むままの鑑定書を書いてくれたら良いではないか、などと短絡はされないと思うが、そのような鑑定書から冒頭に述べたような困った事態が生じるのである。これは、鑑定人として心してかかる必要のあることだと強く認識している。私のところへの相談では、約4割は依頼人の希望する方向と鑑定結果は異なる。
希望する方向は伏せ所見を聞く 私はその旨を説明して断るのだが、「そんな筈はない、いくらお金がかかってもよいから精査してください」などと、要望されることがあり、強い倫理観を持っていないと誘惑に流されてしまう職業であると自戒している。 このような鑑定人を避けるには、自分の望む方向は伏せて「所見を聞かせていただきたい」と質問するのがよい。 所見を聞くには有料のことが多いが、(私のところでは事前調査料金・3万円になる)後々泣くような破目にならないことを考えたら、安いものといえるのではないだろうか。
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