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筆跡鑑定人日記−2
筆跡鑑定人 根本 寛
変体少女文字の怪文書
人権無視の免職 首都圏の30代後半の女性から手紙が届いた。つぎはその中身である。 「私は○○ホームに勤めて1年6ヶ月でした。介護の仕事が好きなので、出来るだけ長く介護職で頑張っていたいと思っていました。仕事をしながらヘルパー1級と福祉住環境3級を取り、これからというときに怪文書事件に巻き込まれ、私が書き手とされ、全く事実無根のまま弁解の機会も与えられず解雇になりました。 筆跡鑑定の結果だと言われましたが、鑑定書は全然見せてもくれませんでした。(中略)このたび新しい介護の仕事を見つけましたが、犯人という変な噂話のため今度の仕事を邪魔されたくありません。先生のことはテレビで見て知りました。筆跡鑑定で無実を証明していただきたいのです」
弁護士会への相談をアドバイス 乱暴な話である。怪文書の書き手とされてクビになったにも関わらず、肝心の鑑定書を見せてもらってないという。私は電話でつぎのようにアドバイスした。とりあえず、その鑑定書がないと反論書は作れないので、その鑑定書を渡してくれるよう要求すること、弁護士費用がないのなら「弁護士会」で無料相談を受けてくれるので、まずはそちらに相談しなさい。 半月ほどして、弁護士会の弁護士の口添えでその鑑定書が私のもとに送られてきた。相手は、何度か対決したことのある鑑定人である。 怪文書は、B5版のレポート用紙5枚にびっしりと書いてある。一種の「変体少女文字」であるが韜晦文字(とうかいもじ=自分の筆跡を隠そうとする文字)ではない。韜晦文字は、一般に乱暴な書き方になり、筆跡個性が混乱することが多いが、書かれている書体はそうではない。
変体少女文字の流行 幸い、弁護士の努力と私の反論書兼鑑定書が奏功し、ホーム側は謝罪金を払って和解になった。 今回のひらがなは、両方とも、1980年代に女子中高生の間で大流行した「変体少女文字」(丸文字ともいう)である。中高生の頭が柔らかい頃に練習して身につける。その結果、この文字を書く者の中には、この文字と普通の文字との、2種類の文字を書き分けられる者が存在する。その意味では表面的な鑑定では誤る可能性がある。相手の鑑定人も表面的な同質性に惑わされ同一人と判断したのかも知れない。 しかし、私の経験では、そういう2種類の文字を書ける能力者といえども、ほぼ確実に、同一人ならではの筆跡個性を潜在させているものである。 したがって、このような変体少女文字に遭遇したら、まずは二通りの書体が書けるのでないかと疑って、その角度からの丹念な調査が必要になる。 筆跡鑑定人としては、このような少女間の流行も、見逃さずに研究しておくことが必要になるのである。
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