筆跡鑑定人ブログ
筆跡鑑定人ブログ−34 |
筆跡鑑定人 根本 寛 |
このコーナーに書くのは、事実に基づく、筆跡鑑定人の「独り言」 のようなものです。お気軽にお付き合いいただければ幸いです。 |
筆跡鑑定と筆跡心理学の関係 (09−4− 8) |
■ | 筆跡鑑定を業務とした経緯 私は、筆跡心理学を研究しそれを筆跡鑑定に応用している。その立場について、対立する鑑定人などから誤解され攻撃を受けることがある。 筆跡心理学は、欧米では学問の一つとして認められ、大きな大学には専門の学部もある。わが国でも、たとえば慶応義塾大学名誉教授の槇田仁先生は「筆跡性格学」と、名前こそ違え、ほぼ同じ分野を長年研究されている。要は保守的なわが国の教育界では、簡単に認められないというだけのことである。 私は経済産業大臣に登録した「中小企業診断士」であり、経営コンサルタントである。キャリアはざっと30年で、商業分野のコンサルタントとして多少は業界では知られている。『商業界』という商業専門誌があるが、そこで、たびたび特集の主筆を務めていたと申し上げれば業界の人にはご理解いただけるかもしれない。 それが何故、筆跡を専門とするようになったかということであるが、コンサルタントとして、採用や昇進などの人事面で、使いやすい人物判別法はないものかと探していた時期があった。質問法によるアメリカ方式も使ったことがあるが、これらは手間ヒマがかかり中小企業や中堅企業には使いにくいものが多い。 そんな折に筆跡心理学に接し、簡便な割には効果が高いとほれ込んだのである。その後、企業での怪文書や不正問題解決などにも対応しなければならないことがあったので、自然に筆跡鑑定の分野に進んだ。 | |||||
■ | 筆跡鑑定人の分類 筆跡鑑定人は、国家資格でないので玉石混交だといわれるが、業界では概ねつぎのように3通りに理解されている。 |
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■ | 筆跡心理学は世界的には学問として認められている 筆跡心理学とは、世界的には「グラフォロジー(Grapholgy)」と呼称され、「グラフィツック=図形」と「サイコロジー=心理学」の合成語である。和訳は「筆跡心理学」となる。 この筆跡心理学は、欧米では学問の一つとして認められている。フランス、イタリー、ドイツ、ベルギーなどヨーロッパでは120年以上の歴史があり、特にフランスでは、「筆跡診断士」は、弁護士などと並ぶレベルの高い国家資格になっていて、企業の約80%が何らかの形で人事に利用しているといわれている。 @ 性格学的グラフォロジー……筆跡と性格の関係を研究 A 類型論的グラフォロジー……心理学の類型論の角度からの研究 B 司法的グラフォロジー……筆跡鑑定など司法分野 C 生理学的グラフォロジー……脳と手の動きなどの関係を研究 |
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■ | 筆跡心理学は筆跡鑑定の中心知識である 筆跡心理学の中心である「性格学的グラフォロジー」は、人間の筆跡に表れた性格や深層心理を追及するもので、筆跡鑑定とは目的を異にすることは言うまでもない。 また、筆跡とは、筆跡心理学で追及している心理的要因のほか、身体的要因(腕の器用さや筋力など)、社会的要因(社会的な立場や役割など)、一般教養、さらに訓練的要因(書道などの訓練)などの影響を受ける総合的なものといえる。 しかし筆跡鑑定の基礎になる「筆跡個性」の理解に当っては、筆跡心理学は重要な位置を占めており、筆跡心理学の知見は筆跡鑑定においては中心的知識なのである なぜなら「筆跡とは、人の行動が痕跡として残されたもの」だから、その行動の元になっている人の心理や個性の理解がなければ、本質的な筆跡鑑定は不可能なのである。整理していえばつぎのようになる。 @個性とは、その人の性格や性質であるが、筆跡は「字を書くという行動の結果」であるから同じく性格や性質が表れる。それを筆跡個性と呼び、筆跡個性の異同を調べることが筆跡鑑定である。 私は以上のように、筆跡心理学を重視しているので、わが国の筆跡鑑定のレベルを上げるべく、昨年、警察関係の研究機関に共同研究を提案したが、積極的な反応は得られなかった。そこで、私としては、このテーマは民間レベルでさらに研究してわが国の筆跡鑑定のレベルをあげようと考えている。それによって不幸な係争人を減らしたいのである。そのために鑑定人養成にも乗り出している。 | |||||
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■ | ある依頼者の筆跡鑑定についての評価 一澤帆布以来、警察系の鑑定が批判されているが、警察系の鑑定人は上記の「筆跡に表れた個性の識別」の理解が不十分だと思われる。警察系の鑑定の最大の問題は、技術面からいえば「個性」というものの理解が不足しているか、表面的な理解しかしていないことである。 「筆跡鑑定」に当って最も重要な部分は、「筆跡に表れた書き手の個性を理解・把握すること」であるが、それを研究するのが「性格学的グラフォロジー」である。したがって、筆跡心理学の素養は、筆跡鑑定の最も核心の部分を強化するものということができる。 言い換えれば、「人の筆跡は、人間の心理・性格などの個性を深く理解することによって、より深く正確に把握することができる」というのが私の学問的な立場である。 このような側面は、現在のわが国の筆跡鑑定で重要性は認識されながらも、研究は不十分で、わが国筆跡鑑定の弱点のように思われるので、私は、斯界の発展に寄与すべく鋭意研究を重ねている次第である。 このことに関連して、最近行ったある鑑定に関して依頼人がコメントを寄せてくれたので紹介したい。この依頼人は熟年の男性である。母の遺言書を巡って兄と争いになり、一審では兄の依頼したA鑑定人……関西での代表的な鑑定人である……の出した「遺言書の筆跡は別人である」との鑑定が裁判所に支持され敗訴した方である。 依頼人は、遺言書の筆跡は母親の筆跡としてあまりに明々白々だと思ったので鑑定書は出さなかったのである。このようなケースで敗訴する例は少なくない。彼は、不本意な結果に驚き、あわててB鑑定人に鑑定を依頼した。結果はA鑑定人とは逆で「本人の筆跡である」というものであった。 とりあえず、これで控訴審を戦えばよいとも思えるが、彼は更に確実を期して私に鑑定を依頼してきたのである。一審での裁判官の偏った判決から、よほど体制を整えておかないと危険だと痛感したためである。 鑑定を頼みたいと思っている方には、3人の鑑定人の鑑定書をつぶさに見ることになったこの方の経験は貴重なはずである。その意味で、鑑定を考えている人には参考になるものと思う。 以下は、その方の手記である。なお、わかりやすくするため、途中に私が「文字の図解説明」を添付した。鑑定した25字中の1字である。 |
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■ | 3人の鑑定人の鑑定書を体験した依頼人のコメント
私は平成20年、母親の遺言書について、本人の筆跡か否かを裁判で長男と争いました。地裁は本人の筆跡とする私の主張を退け、私は敗訴しました。 |
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「気分が不安定になったときに、このような錯覚に陥る癖があるようだ」という根本鑑定人の指摘は、身近に暮らしていた者から見て極めて的確です。その証拠に本人が肉声で同じことを言っているテープが残っています。また、亡くなる半年前に書いた「養子縁組届」の文字にも、このような誤字的なハネがありました。 |
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■ | 筆跡とは人の面貌のように判別が可能 この依頼人のコメントについて若干補足させていただきたい。たとえば、「針」の図に関して、「終筆部を右にハネるように書くこと」が、全ての文字にではなく、「おおよそ半分程度の文字に表れること」を、鑑定人としてどのように処理するのかという問題である。 |
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