近年、科学捜査研究所(いわゆる科捜研)や各地の警察の鑑識部門の出身者が、退職後に筆跡・印影鑑定人として活動するケースが見られます。また、在職途中で独立する方も存在します。
こうした経歴から、「警察出身であれば常に正確で客観的な鑑定を行うはずだ」という印象を持たれることがあります。しかし、実務上、そのような評価が必ずしも当てはまらない事例も確認されています。
筆跡鑑定においては、本来重視されるべき一致特徴が十分に評価されず、相違点のみが過度に強調される鑑定書や、逆に全体として異なる筆跡であるにもかかわらず、限定的な類似点のみを根拠に同一性を肯定するようなケースが見受けられます。
また、印影鑑定においても、明確な形状差異が存在するにもかかわらず一致と結論づけたり、通常行われるべき拡大画像による詳細比較が不十分な資料構成となっている例が確認されています。
これらの背景については一概に断定はできませんが、依頼者の意向との関係性や、鑑定業務の受注構造が影響している可能性も否定できません。実際に、不自然または妥当性に疑義のある鑑定書に対する反論作成の依頼は少なからず存在しています。
さらに、そのような鑑定書に対して技術的・論理的な指摘を行った場合でも、再反論においては鑑定手法そのものではなく、経歴・受賞歴・経験年数といった周辺的要素が強調されることがあります。しかし、鑑定の妥当性は本来、手法の客観性と論証の合理性によって評価されるべきものです。
また、警察組織内における鑑定業務は、同一目的の組織内で完結する性質を持つため、外部からの体系的な反論や検証を受ける機会が比較的限られていた可能性があります。その結果、公開の場での反証対応や批判的検討に対する経験が十分でないケースも考えられます。
