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筆跡鑑定人ブログ−1
筆跡鑑定人 根本 寛
ちょっとした工夫で納得性を高める
スカッとするような鑑定の面白さを伝えたいが…… 筆跡鑑定では、鑑定の正しさが最も大事であることは言うまでもないが、関係者の胸にスンナリ落ちるという「納得性が高いこと」も非常に大切である。 その点で、スカッとするような気持ちのいい話を書きたいが、その「鍵になった文字」の関係で書くことができないものが多い。固有名詞や状況を変え、依頼人の承諾を得て書いているが、多数の関係者には見たような文字だなと首をひねられる恐れがある。個人情報保護の観点から、神経を使わなくてはならない。今回は、ちょっとした工夫で納得性を高めたケースである。
虎の子をはたいて購入した住まいが欠陥品 関西のある都市での出来事である。会社役員の大西さんが建売住宅を買った。ところが造成工事がずさんだったため、住み始めて半年目の台風で地盤が崩れ、建物は全壊してしまった。 現在裁判で争っている。建売業者が発行した念書があるが相手は発行を否定している。その念書が、契約書と同一人ならば造成がずさんであったことの証明になる。鑑定で証明してもらいたいとのことである。 つぎの図の「10」の文字が鑑定の対象文字である。契約書の文字は普通に右傾している。念書の文字は、逆に左傾している。文字の傾きを無視すれば筆跡個性はよく似ている。
一文字づつの鑑定と複数文字の鑑定の違い まず「1の字」と「0の字」を一文字づつ別々に鑑定した。私は一字づつ鑑定することが多い。その方が一文字に集中でき、鑑定精度が上がるからである。鑑定人によっては、たとえば「青木太郎」というような文字を一括して鑑定する人もいるが、どうしても緻密さの面で雑になる。 今回のケースは、一文字づつ鑑定することで、他の文字も合わせて、同一人の筆跡と結論はできた。 文字を右傾させたり左傾させたりするのは、文字を書きなれた人間にときに見られることである。特にアラビア数字には、2パターンの数字を書く人間が少なくないので判断には自信がある。 問題は、そのような個人内変動のある筆跡であることを、どう説明すれば、同一人だと納得してもらえるだろうかということである。
笑いたいほど奏功した工夫 そうだ!!両方とも右傾型に配置し直してみたらどうなるだろうか。こう考えて配置を変えてみた。それがつぎの図である。
………いかがだろうか。笑ってしまうほど酷似している。「0」の大きさこそ違うが、その他は瓜二つといってもいいくらいである。「1」の字の「下から入筆する運筆」「僅かな左への湾曲の具合」「終筆部のひっかけるような運筆」どこを取っても瓜二つである。 「0」の字では「真円に近い形」「ほぼ頂点にある起筆部」などがよく似ている。一般に「0」の字の起筆は、時計でいえば一時のあたりに来る人が多いが、この文字は頂点かやや左寄りでその点でも個性的である。これならば、関係者の誰もがスンナリ納得するだろう。 この鑑定では、鑑定の面では難しくはなかったが、個人内変動を理解して納得してもらいたかった。それが、文字をクルリと回したという、それだけのことでうまく功を奏したのであった。
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