(日刊自動車新聞社「カードック」02年4月号掲載)

[セールスマネージャー育成コース・第1回]
近代経営研究所・代表
中小企業診断士 根 本 寛

   工場からショップへの転換

■宅急便のSDに学べ
   整備業や板金業は、今、生き残りのために下請型から直需型へと革新していくことが求められている。
 第一に革新しなければならないのは「考え方」である。それは、全員が「販売無くして事業なし」という考え方に徹することだ。そして、全員がセールス・マインドと販売技術を身に付けることである。
 そこで、このセクションでは、これからその分野を取り上げていくことにする。
 セールスマネージャーとは、一般に営業部長や店長を指す。しかし、ここではそれに限定されず、例えば「技術者」や「事務員」でも、販売の重要さを理解している全ての方に役立つ内容にしていくつもりである。これからは、どんな職種であっても販売能力がないと伸びられない。そのあたりを理解して取り組んでいただきたい。
 宅急便の大和運輸は、会社相手の仕事から消費者相手の仕事に切りかえるに当たって、運転手の意識を「セールス・ドライバー」(SD)に革新して成功した。SDというのは、ただ運転するだけでなく営業や接客のできるドライバーという概念である。この意識革新のできた人間が伸びている。
 整備業や板金業の技術者も、今や全く同じく、技術にプラスしてセールス・マインドとスキルを身に付けることが必要になったことをしっかり認識していただきたい。

■マネージャーに求められる3M
   店長や営業部長の重要な職務はつぎの三つである。頭文字を取って3Mと言われている。

@  マーケティング(営業の企画と計画)
A  マーチャン・ダイジング(品揃え政策)
B  マネジメント(人事、店舗、顧客、数値の管理)

   第一のマーケティングは、いまや企業活動の中枢をなしている。経営の重点が「どうやれば良いか」から「何をやれば良いか」に変ってきたからだ。
 「どうやるか」というのは、やるべきことはハッキリしていて、効率良くやることが最優先された高度成長期のテーマである。転換期の今は「何をやれば良いのか」ということを考えることがテーマになった。
 マーケティングとは、「誰に」「何を」「どんな差別化したやり方」で提供すのかということを戦略的に構築することだ。この、マーケティング戦略を構築することが店長レベルの幹部に取っての最重要課題である。もちろんこれは、トップに取っても中心テーマである。(図表参照)
 この戦略を組み立てる上でのキーワードは「マーケット・イン」である。マーケット・インとは、「顧客を満足させることだけがわが社の存在価値である」という考え方だ。この反対の考え方を「プロダクト・アウト」(自社の都合を優先させて経営するという考え方)という。

■顧客が求めているものはこれだ
   顧客ニーズは時代とともに変化するから、常に顧客の立場に立って敏感にキャッチする感性が必要である。モノ不足の時代とモノ余りの時代では、客の求めるものが当然違ってくる。
 長年企業を率いてきた創業経営者が誤るのは、この顧客のニーズ変化をキャッチするアンテナが鈍くなるからだ。
 モノがあふれ、便利さや高いサービスに慣れた現代人が今求めてのは、「快適な生活」「スピード」「心地よい接遇」の三つである。マーケティングの中心は、この三つをいかに安く実現できるかである。整備でもBPでも技術や品質が良いのは当たり前、繁盛のカギはこの三つをいかにして実現するかにかかっている。本コースのスタートに当たり、まずこのことをしっかり認識していただきたい。

                                (この項以上)




(日刊自動車新聞社「カードック」02年6月号掲載)

[セールスマネージャー育成コース・第2回]
近代経営研究所・代表
中小企業診断士 根 本 寛

   真の顧客満足とは


■サービス業であることの認識が最重要
   整備・板金業が直接ユーザーを相手にして、すなわち直需で生きていこうとするとき最も大事な事は、「考え方の転換」である。
 それは「自分達はサービス業である」との認識をしっかり持つことである。そして、サービス業は「顧客満足を提供できなければ生きていけない」という原点を理解することだ。
 お客様があなたの工場(店)に行かなければならない義理は無い。顧客は、無数にある店の中から、もっとも自分を満足させてくれる店を自由に選ぶ。だから、これからの競争は「顧客満足競争」なのでである。
 それでは、顧客満足(CS=カスタマー・サティスファクション)とは何だろう。
 私が今まで行ったカーアフター業界での研修などから見ると、顧客満足について真に理解している人は非常に少ない。そこで今回はこの顧客満足について徹底してお伝えしたいと思う。

■機能的満足と心の満足
   私たちはものを買ったりサービスを受けたりした時、その商品やサービスの内容が支払った金額に値する、あるいは支払った額より価値があると感じたときに満足する。このような満足を「機能的満足」という。この面がいいかげんでは顧客満足はありえない。
 しかし、近年、技術レベルが上がり、「機能的満足」は当然の時代になった。近年、顧客満足と言うときの重点は、「心の満足」に移っている(図表)
 心の満足と機能的満足はどこが違うのか。
 機能的満足とは、理性で感じる満足だ。つまり、支払った金と得られた価値を計算して「得した」というように、理性で判断する満足である。一方「心の満足」というのは、「大切に扱ってもらったときに感じる満足」なのだ。
 人間、誰でも一番かわいいのは自分である。その大切な自分を非常に大切に扱ってもらった…この満足に勝る満足はないということだ。   
 このことをよく理解すると、顧客満足とは必ずしも「サービスレベルそのものではない」ということが分かる。つまり、それは良い設備でサービス水準も高く安定しているからといって必ずしも顧客満足に関して良い点数を取れるとは限らないことを意味し、逆に設備もサービス体制も十分ではない零細な企業であっても、真から心をこめて誠実に対応するならばどこにも負けない顧客満足を与えることができることを暗示している。
 これを具体例で言うと、設備もサービスレベルも整ったディーラーに対して、設備やサービス体制の十分でない中小の整備工場や板金工場でも、顧客満足に関しては決して負けるものではないということだ。中小店の繁栄の鍵は、顧客を真に大切に扱い顧客満足を差し上げることにある。

■接客の土台は「人間性」
   ここまで読んでいただくと、やはり「顧客満足」の重点は接客面にあるということがご理解いただけるだろう。それでは、接客面のポイントは何か。
 前に接客の基本は3Sだと述べた。3Sとは、「スマイル」「スピード」「センシリティ(誠実)」ということだ。しかし、実はもっと基礎のポイントがある。それはつぎの三つである。

@  接客の土台は人間性である
A  感謝の心を持っていることである
B  サービス業は「クレーム対応業」との自覚が大切

   第一に接客の土台は「善い人間性」にあるということだ。「善い人間性」とは、「挨拶ができる」「困っている人を見たら助けてあげる」といった、人間として当然の温かみのある人間ということだ。この人間性がないと、どんなに訓練を受けたとしても、人に良い感じを与えることは難しい。また、ちょっと感性の高い人にはすぐ見抜かれてしまう。
 以前、大手チェーンのある居酒屋の店長が、態度こそバカ丁寧だが、心がこもっていなくて感じが悪いと書いた。そんなもので、心の貧しさは表情や雰囲気に出てしまう。だから、マニュアルでいわば表面だけを磨くのではなく、中身の人間性を養うことが大切なのだ。……「感謝の心」と「サービス業はクレーム対応業」は次回説明させていただく。

            図表   顧客満足の2大要件




(日刊自動車新聞社「カードック」02年8月号掲載)

[セールスマネージャー育成コース・第3回]
近代経営研究所・代表
中小企業診断士 根 本 寛

   サービス業はクレーム対応業

■心の満足をどのようにして実現するか
   前回、整備や板金工場が直需を狙うのであれば、「自分たちはサービス業である」との自覚が大切で、サービス業の本質は「顧客満足競争」だと述べた。
 そして、顧客満足には「機能的満足」と「心の満足」の二面があり、近年、重視されているのは心の満足だと述べた。さらに、心の満足は「大切に扱ってもらいたいという顧客の心に対応すること」であり、それには接客が重要で、接客の土台は@人間性、A感謝の心、Bサービス業はクレーム対応業との理解の三つだと述べた。@は前回説明したので、今回はその先を説明することにする。

■接客のポイント第二は「感謝の心」
   接客の土台第二は、「感謝の心」である。感謝の心は、自分はお客様によって物心ともに生かされていること、さらにお客様だけでなく、周囲のあらゆる関係者(ステーク・ホルダー)によって生かされているということを深く理解することから生まれる。これを理解するには、一つの光景を想像するといい。
 最近はどうなのか知らないが、以前、中学や高校の運動会では、「人間ピラミッド」という一種の体操競技をよくやった。5人くらいが四つんばいになって並び、その背中に4人が同様に四つんばいで乗り、その上に3人、さらにその上は2人、最上段は1人が乗ってピラミッドのような形をつくる。
 私たちの人生というのは、まさにあの組体操のようなものではないだろうか。人の作ってくれた土台の上に乗り、自分もまた誰かを支えている。社会人として生きるということは、まさにこの人間ピラミッドのようにして生きることなのだという自覚が必要だ。これが分かれば感謝の念や責任感なども自然に生まれてくる筈である。

■サービス業はクレーム対応が勝負
   皆さんも食事をしたりホテルに泊まったりした時、不満を感じることがあると思う。私は職業がら見る目が厳しいせいか、一流ホテルでも不満を感じることが少なくない。
 サービス業というのは全ての面に気を配らなくてはならないから、どんなに努力をしていてもクレームが発生しやすい。だから、クレームを出さないように努力することは大事だが、同時にクレームへどう対処するかがポイントになる。
 クレームへの対処いかんによって、むしろ信者客(ロイヤル・ユーザー)を獲得することも出来るし、永久に追い払ってしまうことにもなる。
 以前、出張先のレストランで生ぬるいビールが出てきたので注意をしたことがある。すると、レジで謝られ勘定は結構ですと言われた。高級店なら当然の処置だが、大衆的な店だったのでなかなかしっかりしているなと感心した。結果、出張のたびにその店を利用したことがある。
 初回のクレームがなかったら多分そんなに利用しなかっただろう。いい加減な店が多いので、たまにしっかりした店にぶつかるとひいきにしてしまうのである。
 このように、クレームは対処しだいでプラスに転化することができる。このレストランが私の注意を無視したらどうだっただろうか。多分私は、二度とその店には行かなかっただろう。

■コンプレイント・マネジメントで企業力を高めよ
   このようにサービス業と言うのは、クレームへの対処によってロイヤル・ユーザーを獲得することもできるし、永久に客を失ってしまうこともある。このことをしっかり理解して、クレームがあったら、ロイヤル・ユーザーを獲得する良いチャンスと受けとめるくらいの意欲を持って対応することが大切だ。
 さらにクレームは、発生原因を分析することによって業務改善を図り、競争力アップに役立てることができる。まさにサービス業は「クレーム対応で生死が決まる」のである。
 多くの企業では、今までクレーム(苦情)に関しては後ろ向き受け止め、「苦情処理」として対処してきた。
 しかし、今日、先進的な欧米企業では「コンプレイント・マネジメント」(苦情対応マネジメント)と受け止め、計画的に競争力強化に活用している。大いに見習うべきである。
 今、意欲的なサービス業では、「ミステリー・ショッパー」という方法で問題点を指摘してもらい改善に役立てている。ミステリー・ショッパーとは、プロの調査員が客を装ってホテルに泊まったり買い物などをして問題点を発見する方法である。
 クレームを言ってくれる本物の客は、無料でミステリー・ショッパーの調査員と同じ働きをしてくれるのだから感謝しなくてはならない。私のケースのようにビール一杯などは大変に安いものである。

            図表   クレーム対応が生死を分ける



(日刊自動車新聞社「カードック」02年10月号掲載)

[セールスマネージャー育成コース・第4回]
近代経営研究所・代表
中小企業診断士 根 本 寛

   「生涯顧客」を確保せよ

   これからの整備業やBP業は全員がセールス・マインドを持たなければならない。それも高度成長期のような一方的に「売り込む」という姿勢では駄目だ。
 高度成長期は団塊世代の登場によってマーケットがぐんぐん拡大した時期だった。団塊世代が誕生しはじめると、まず産院が大忙しになった。次は幼稚園・保育園、そして小学校、中学校、高校、学習塾と、団塊世代の成長に合わせて次々と大繁忙が訪れた。
 そしてこの団塊世代が社会人になると、乗用者の販売台数は年々増加して、カー業界も大有卦(うけ)に入ったのであった。


■自動車業界の仁義無き戦い
   しかし、今や団塊世代も50代後半となり環境は激変した。年間に200万人も生まれていた子供はいまや120万人となり、あらゆる業界でマーケットが縮小している。
 その結果、年間600万台も売れていた新車販売は今や450万台に激減し、将来も増加は期待できない。カーディーラーから下請けに降りてきていた整備や板金の仕事が無くなるのも当然のことである。
 新車販売がこれだけ減ればディーラーとしては外注する必要はない。それどころか身内の仕事を確保するのすらおぼつかない。今やカーディーラーは、外注するどころかその外注していたカーアフターマーケットへ自ら進出し、生き残りを図ろうとしている。まさに仁義無き戦いの始まりと言える。
 このような競合の激化の一方、顧客は成熟し賢い消費者となっている。このような状況にあっては、今までの売り手優先の考え方では顧客に支持してもらうことは出来ない。
 あくまで「顧客満足」によってお客さまに支持されない限り今後の生存はあり得ないことを深く理解することが必要だ。

■地域密着ビジネスの急所
   整備業もBP業も直需で生きていこうと考えるならば、どうしても自覚しておかなければならないことが二つある。
 第一は、自分たちのビジネスは「サービス業」であるということ、第二は「地域密着ビジネス」だということである。
 サービス業については説明してきたので「地域密着ビジネス」について説明しよう。
 顧客全体の80%程度を占める地域を一次商圏というが、一般の整備業やBPショップの場合、その広さは直線で半径5キロ程度である。
 その一次商圏に住んでいる顧客2万人なり3万人の人達に支持されない限り生き残る事はできない。それが地域密着ビジネスということだ。
 このように自分の生きる商圏が限定され、お客様の数が限られていることを自覚すれば、そのお客様を「生涯顧客」としてしっかりつなぎとめなければならないということが分かる筈だ。(図表)
 どうすればそれが出来るのか。それは、全員がつぎのようなセールス・マインドをしっかり持って行動することである。


■どうすれば生涯顧客を確保できるのか

@  接客に当たっては常に「生涯客」になってもらう心構えで行動する。
A  お客様とは向き合わない。常にお客様の側に立つ。
B  お客様を好きになる。
C  お客様の知りたい情報を提供し、お役立ちセールスに徹する。
D  日頃から自分の人間性を磨く。

   まず、接客の基本方針は「生涯顧客」になってもらうことである。全社員の全ての行動をこの目標に向けなければならない。
 車の具合が悪くて来店されたお客様は、体調を崩して医者を訪ねる患者と変らない。このようなときに親切にされたことは強く印象に残るものである。だから、まずは商売を一時忘れて、ともかくお客様の問題解決に全力を上げることが大切になる。
 「あなたの今日の仕事は1人の信者客をつくることです」という言葉がある。信者客とはロイヤルユーザーということ、それが生涯客へと発展する。
 仮に1日1人の信者客を作っていったら1年で300人、10年で3000人の信者客ができる。こういう商売をしていけば先にいくほど末広がりの繁栄になるのである。
 生涯客の概念は、近年のマーケティングのテーマ、「ライフタイム・バリュー」(顧客が一生涯でもたらしてくれる貢献度=売上・利益)と同じ思想である。


            図表   生き残りのカギは生涯客の確保にある



(日刊自動車新聞社「カードック」02年12月号掲載)

[セールスマネージャー育成コース・第5回]
近代経営研究所・代表
中小企業診断士 根 本 寛

   客がパタリと来なくなる日

   前回、これからの整備業やBPショップは来店していただいたお客様一人一人に対して、「生涯顧客になってもらうのだ」という強い決意で接しなければダメだと述べた。
 なぜなら、市場の拡大は望めなくなったという環境変化と、地域密着ビジネスであるため顧客数には限りがあるからだ。

■サービス業の最大の宣伝は「口コミ」
   このことの重要性に関し、もう少し掘り下げて説明しよう。最初に理解して頂きたいことはつぎの五つである。

@ 整備やBPは、経験して見なければその店の良し悪しが分からない「経験品質商品」である。
   
A したがって、たいていの人は、利用した人の評価を聞いて利用するかどうかを決める。
   
B すなわち、サービス業の最も効果的な宣伝は「口コミ」であり、メディアによる一般の宣伝広告は製造業に比べると効果が低い。
   
C 顧客満足を研究した「グッドマンの法則」によれば、満足した客はそれを平均5人に話し、逆に不満を持った客は平均10人に話す。
   
D つまり満足した顧客はあなたの店の良いセールスマンになって売りこんでくれるが、不満客は「悪宣伝をするセールスマン」になって、あなたの店の足を引っ張る行動をとる。
(図表参照)

   以上のことを理解すれば、前回述べたように、今日来てくれたお客様に満足していただき「信者客」になってもらうことの重要性が理解して頂けるだろう。


■毎日3人の不満客を作れば3年で客はゼロになる
   仮にあなたの店の商圏に3万人の見込み客がいるとする。整備やBPショップの一次商圏は半径5キロ程度だから平均すればそんなものだ。
 もし、毎日不満客を3人発生させていたら、1年で900人の不満客が生まれる(300日×3人)。その不満客が平均10人にしゃべるとすれば1年で9000人、3年もすれば商圏の見込み客ほぼ全員が、あなたの店は行ってはいけない店だと理解することになる。じつに恐ろしいことである。
 これは架空の話ではない。つぎのような実例がある。
 ある車検チェーンに加盟した整備工場は、それまでのおとなしい営業姿勢から「積極的な提案営業」に切り替えた。するとしばらくは売上も順調に伸びたが、1年も過ぎたあたりからパタリと客が来なくなってしまった。
 友人に聞いてみると「君の所に行くと押し売りされて高くつくと評判だよ」と言われた。
 経営者は愕然とした。自分では決して押し売りなどする気はなく、ただチェーン本部から「これからは積極的な提案営業が必要」と指導され、それに素直に従っただけだったからである。


■客に接する明確な営業方針を確立せよ
   今、この経営者はつぎのように話している。
「今になって分かったが、私が社員に積極的に提案営業をしてくれと言ったことを社員は過剰に受けとめ、頑張りすぎたようだ」
 ニューヨークのキャデラック販売店が、「ノーハッスル」と言い出したのは10年も前のことだ。
「ノーハッスル」とは、必要以上に客に売りこもうとしないということ。そういう行動が来店客を減少させることに気がついたからだ。  
 今回の整備工場も、高い勉強代を払って同じことを勉強させられた訳だ。
 このようなことは、今まで、あまり一般ユーザーを対象にしてこなかった工場が直需に業態転換しようとしたとき陥りがちな、非常に危険な落とし穴だ。
 何故このような落とし穴にはまってしまうのか。
 それは、営業についての正しい考え方を確立していないからだ。
 工場から直需ショップへと業態転換をするには、どのような考え方で顧客に接するべきなのか、その「営業方針」の確立が必要になる。そしてそれを、従業員に徹底しなければ、多くの店で同じ過ちを犯すだろう。次回は、正しい営業方針の中身について具体的に説明しよう。

            図表   サービス業の最大の宣伝は「口コミ」






(日刊自動車新聞社「カードック」03年2月号掲載)

[セールスマネージャー育成コース・第6回]
近代経営研究所・代表
中小企業診断士 根 本 寛

販売の本質を理解しないと直需ビジネスは失敗する

   このコーナーは昨年4月にスタートし、セールス・マインドの重要性とポイントを説明してきた。整備やBPが直需に切りかえる上での重点だと考えるからだ。
 前回は、整備やBPは経験しないと良し悪しが分からない「経験品質商品」なので最大の宣伝は満足した客の「口コミである」ことを説明した。満足客は平均5人、不満客は平均10人に口コミするので、1日3人の不満客を生んでいれば、1年で9000人が行ってはいけない店だと認識してしまうこと、実際そうなって客がパタリと来なくなってしまった実例を説明した。

■客がパタリと途絶えた車検ショップ
   その店はある車検チェーンに加盟し、それまでの消極的な営業から積極的な「提案営業」に切り替えるよう指導を受けた。言われたとおり実行したら1年くらいは売上も順調に伸びたが、1年目あたりから客がパタリと来なくなってしまった。
 あわてて仲間に聞いてみると「あんたのところに行くと押し売りされて高くつくと評判だよ」と言われた。
 下請的な立場から直需に切り替えた会社は、どこもこのような失敗の危険にさらされている。セールスの本質が分かっていないからだ。    
 これは、直需を指導しているチェーン本部にも同じことが言える。
 セールスの本質は欲しいと思っている人に売ることだ。欲しいと思っていない人に押し売りすることではない。欲しいと思っていない人に売ろうとすると今述べた店のようになってしまう。
 特に整備については、プロから「危険だから取り替えたほうがいい」などといわれると、アマチュアの客としては反対はできない。そこに危険が潜んでいる。客が簡単に言うことを聞くので、売りたいと思えばどんどん売れるからだ。また、店の都合で売ろうとしたのでなく客のことを考えて勧めたとしても、客がそれを十分に理解していなければ、押し売りされたのかなという疑念が残る。


■販売の本質は欲しいという客に売ること
   繰り返すが、セールスの本質は欲しいと思っている人に売ることだ。欲しいと思っていない人に売ることではない。しかし欲しいと言う客を待っているだけでは売上は上がらない。ここに販売担当者のジレンマがある。
 どうすればよいか……。つぎのセールスの本質を理解することである。

@ セールスの本質は欲しいという人に売ることで、欲しいと思わない人に売ることではない。
A 顧客はその品なりサービスなりが自分に取ってプラスになると理解できたとき、初めて欲しいという気持ちがわいてくる。
B プラスだと理解できていないのに勧められると、押し売りと感じる。
C したがって、販売員に必要なのは「客の立場に立ってプラスマイナスを考えられる能力」と「それを分かりやすく説明できる能力」である。


■整備はインフォームド・コンセントの概念を
   以上を実践する上で、さらに次のことを知っておく必要がある。

@ お客さまのニーズが分からないと、正しい提案はできない。同じ車にまだ4〜5年は乗ろうと考えている客と、半年以内に買い替えようと考えている客のニーズは同じではない。
A お客様のニーズを聞かせていただくには「十分な信頼関係」が必要である。それがないのに先に進もうとすると失敗する。
B 信頼関係はきちんとした挨拶から始まり、テキパキとしたプロらしい動作、的確で親切な対応が土台になる。
C 提案営業とは、第一に、お客様に正しい必要情報を提供することである。

   提案営業は店の都合優先であってはならない。もしそうであればその瞬間から「提案」の意義は失せてしまう。あくまでお客様の立場に立った「お役立ち提案」でなくてはならない。
 特に車検整備に関し説明することは、医師の「インフォームド・コンセント」(専門家として患者にきちんと説明する責任があること)と同じ意味であることをしっかり理解しておく必要がある。

            図表   セールスの正しい流れ