| (『カードック』04年5月号より) |
| [社長が決断するとき・第4回 |
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時代の寵児から一転地獄に、
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| 産業構造転換の嵐が吹き荒れている。ここ二年は、業歴三十年以上の老舗企業の倒産が倒産全体の三割近くになっている。かって無かったことである。転換期には得意先の倒産など突然の突風に翻弄されることも少なくない。そんな困難を乗り切った先達の経験に学ぶことは、リスクマネジメントの面から今こそ必要だ。先達の生々しい経験をお伝えしたい。 | |
| ■衰退業種脱出のシナリオ | |
| 平成十六年正月、自社のホームページの中で池内はつぎのように挨拶をしている。 「あけましておめでとうございます。昨年度は大変なご迷惑をおかけし、心からお詫び申しあげます。一日も早い再生を期し、社員一同、全身全霊で難局に立ち向かっております。大変ありがたいことに、皆様の声援のお陰で“IKT・風で織るタオル”の認知度は大きく成長してきました。小さい会社の大きい挑戦ではありますが、IKTの世界への挑戦が再生の道と信じて驀進しております(後略)」 タオル業界は、中国製タオルなどを対象にセーフガード(緊急輸入制限)を求めるほど、経営環境の極めて厳しい衰退業種である。国内生産量最大の今治を中心とする愛媛県の企業はピーク時には五〇〇社もあったが、中国産などの攻勢で現在は二〇〇社程度になり、生産量も四〇%に激減している。 今治に所在する池内タオルは創業昭和二八年、池内計司(五五、現社長)の父が創業したタオルメーカー。池内は創業三〇周年目の昭和五八年に社長を継いでいる。売上規模七億円と中堅規模の企業である。池内は語る。 「価格では中国製に到底対抗できない。これからは品質の勝負です。しかし割高であれば売れない。リーズナブルな価格でありながら画然と差別化された商品をつくるしか道はないと思いました」 「品質」、「リーズナブル価格」、「明確な差別化」。この三つのベクトルを融合する難問を突破しない限り生存の道はないのだ。 |
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| ■環境重視をコンセプトに自社ブランドを創出 | |
| 考え抜いて打ち出した戦略はつぎの三点である。 @ 問屋からのOEM生産専業から脱却しないと将来はない。そのため自社の独自ブランドを構築する。独自性に関しては、ともかく品質にこだわった商品をつくり、「環境重視」をコンセプトにする。 A 具体策として素材はオーガニックコットンを使用。普通の綿花は生産過程で大量の農薬や枯葉剤を使うが、オーガニックコットンはそれらを全く使用しないので環境に負荷をかけない。それだけに仕入値で五倍と価格は高い。更に、工場で使う電力は環境負荷の無い風力発電の電力にする。 B コストを抑えるため、自社だけでなく前後工程の協力工場を含めて徹底した生産工程の合理化を進める。具体的にはQR(クイック・レスポンスシステム)の導入やISOへの取り組みを行う。また、従来の、工場に不利な古い取引慣行を打破し資金を有効活用する。 |
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| ■「ITK風で織るタオル」の大ブレーク | |
| 自社ブランド「ITK風で織るタオル」は、業界初のISO14001と9001の認証を取得した一九九九年から発売した。「風で織る」とは、工場の電力に風力発電の電力を使っているからだ。 これらの努力は徐々に報われてきた。まず、二〇〇〇年、スイスの認証機関エコテックスから最高級の「クラス1」の認証を得た。クラス1とは乳幼児が口に含んでも大丈夫というレベルである。二〇〇二年四月にはニューヨークで開かれる全米最大規模の生活用品展示会で「ITKタオル」は「ベスト・ニュー・プロダクト・アワード」という賞を獲得した。この賞は三二カ国、一〇〇〇社から五社しか選ばれない。もちろん日本企業初の受賞である。これはデザインを含めた品質と同時に環境対応が評価されている。 この瞬間から、新ブランド「ITKタオル」は大ブレークした。内外の多くの有力小売業から問合せがあり、池内のもとには無数の取材が殺到した。NHKの三〇分番組、テレビ朝日の特集、日経ビジネスの記事と数え切れないほどの報道がされた。また、衰退業種活路開拓の好事例として経済産業省をはじめ行政からもさまざまなアプローチがあった。インターネットで環境への取り組みが評価され、一〇〇〇人ほどの熱狂的なファンも誕生した。 〇三年には時代の寵児となった池内が、〇四年の新年挨拶ではなぜ「昨年度は大変なご迷惑をおかけし、心からお詫び申しあげます」と言わなければならなかったのか。 |
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| ■廃業か存続か、突然襲った危機 | |
| それは、〇三年八月二二日の夜、自宅にかかってきた電話に始まった。売上の六割を任せていた卸会社の社員からだった。社員は声を詰まらせながら言った。 「会社の様子がおかしい。危ないかもしれません」 自社ブランドが大ブレークし、対応に忙殺されていた池内に取っては、まさに晴天の霹靂であった。 六日後、卸会社は破産し受取手形と売掛金合わせて、二億四千万円が消滅した。「廃業か存続か」の決断を迫られた。考え抜いた末、九月九日、事業の継続を決意し「民事再生法」の適用申請をした。負債総額は一〇億四千万、その九割は伊予銀行である。翌十日からは秋もののタオルが全国のデパートに展開されるという、まさに光と影の交錯する日であった。 池内は「新ブランドを始めていなかったら廃業したかも知れません」と語る。幸い伊予銀行を始め債権者の賛成を得て再生の道を順調に歩んでいる。 もちろん、現在、デパートをはじめ有力小売店の店頭には「ITK風で織るタオル」がならんでいる。ニュウヨークのインテリアショップの最高峰・ABCカーペット&ホームでは「ITK風で織るタオル」は、世界の三大ブランドの一つと評価され、米国でのバスタオルの平均価格一〇ドルに対して、池内タオルは四五ドルで販売されている。現在、米国で五〇店、ロンドンとパリで二〇店のショップで販売されている。昨年暮れには米国に営業所を設置、社員も常駐させた。 タオル業界にとどまらず、斜陽産業と言われる業界にとって池内タオルが開いた活路の意義は大きい。中小企業の活路の一つは「多品種少量生産」ならぬ「・・・難品種少量生産」にある。直面する難問に屈せず、池内の挑戦を参考に知恵を絞って欲しい。 |
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