(「経営者の四季」06年7月号より)


 今、経営環境は100年に一度と言われるような大きな転換期にある。このような転換期に求められる経営は、「攻めの経営」である。
 私は30代にベンチャー企業を興し10年ほど社長を務めた。その後コンサルタントに転身し、ざっと300社の経営に関与してきた。その経験から、そもそも中小企業に「守りの経営」はないと考えている。
 大企業には、リストラをする、支出を削減するといった守りの経営をする余裕がある。しかし、中小企業にはリストラの対象になるような余分な人間はいない。切り詰められるような余分な経費もない。中小企業でそんなことをしたら、社員の戦意は萎え、存在意義を失うだけである。中小企業には「縮小均衡」はなく、縮小すれば消滅に向かうのである。

 しかし、こう言ったからといって、やみくもに攻めればよいというものではない。もともと資金のない中小企業なのだから、その分知恵を出さなくてはならない。
 知恵を出して独自商品を開発し、頑張っている商店を紹介したい。
 神奈川県・葉山に「リカーズかさはら」という酒店がある。(表紙の写真)。住宅地の中にポツンとある小さな店だ。売場はたった10坪しかない。しかし、この店は年商8000万円と普通の店の約2倍の売上がある。
 その理由は10年ほど前から売り出した『葉山ワイン』という強いオリジナル商品があるからだ。このワインは原産地はフランスとドイツだが、葉山というリゾートにピッタリの綺麗なブルーのビンに入っている。ラベルは葉山の海と空、そしてヨットという図柄で、葉山のイメージにピッタリだ。地元の人が、知人を訪ねるときなど手土産に持って行きたいと思わせる雰囲気がある。また、葉山を訪れた記念に買って帰る人も多い。
 日本酒のオリジナル商品を持っている酒屋は多い。しかし、日本酒はどこにでもあってあまりアピール力がない。しかし、葉山というオシャレなイメージとワインはぴたりとマッチして「リカーズかさはら」の人気商品になっている。
 このワインは、店主・笠原吉昭さんが、5年掛かりで開発したものだ。笠原さんは単に自店の利益だけを考えているわけではない。従来から次の経営理念を大事にしている。
 このような考えのものとに、何か葉山のイメージアップにつながる商品が作れないかと狙っていたのだ。それが、ある輸入品の見本市で、綺麗なブルーボトルのワインに出くわして現実のものになった。
 「これだ!と思いましたね。このボトルに葉山のイメージのラベルをつけたらきっと魅力的な商品になると直感しました」
 そして輸入もとの商社と交渉して、5種類の葉山ワインを作り出したのだ。

 その「リカーズかさはら」が、今年3月、またまた強力な新商品を売り出した。今度は葉山の特産品・キャベツを使った「キャベツ焼酎」である。商品名は『cavolo』(カヴォロ)という。(720ミリリットル 1200円)。
 若い女性を意識したということで、ネーミングもそうだが、みずみずしいキャベツの色のラベルでなかなか洒落た雰囲気である。
 「和食はもちろん、イタリア料理にも合いますよ。お湯割りや、レモンなどの柑橘類を添えて飲むのもお薦めです。」と笠原さん。
 今度のキャベツ焼酎は、「地域のイメージアップ」にプラスして、「地場特産品の活用」というテーマも加わった。そんなこともあって、神奈川新聞が大々的に取り上げてくれ、発売前に予約注文が200本もあった。
 笠原さんは、どのようにしてキャベツ焼酎を考え出したのか。それは、3年ほど前に、東京・練馬で「小松菜焼酎」が発売されたと聞いたことに始まる。小松菜から焼酎ができるのなら、キャベツでもできるはずだと考えたのだ。しかし、アイデアは生まれたものの対応してくれる蔵元がなかなか見つからなかった。しかし、今回、協力してくれる蔵元が見つかり、長年の夢が現実のものとなった。
 今回、「攻めの経営」という角度から、笠原さんのチャレンジを取り上げたが、どのような業種でも、世の中の動きと自分の足元をじっくりと見れば、攻めのタネはどこにでも転がっている。肝心なのは、必ずあると信じて探すことだ。転換期とは「変化の時代」である。変化のあるところにチャンスは必ずある。粘り強くチャンスをものにしていただきたい。


根本 寛  ねもと・ひろし
経営コンサルタント、中小企業 診断士経営経験を生かした戦略経営・マーケティングの第一人者としても有名。著書に『創業・再生支援講座』(近代セールス社)『文字癖の魔法』(かんき出版)『筆跡診断』(廣済堂出版)など多数。