(隔月誌「Mi」07年2月号より)


  環境変化は、多くの企業に新しい事業機会の発見や逆に斜陽になるなどの影響を与える。しかし、多くの企業にとっての機会や脅威が、ある企業にとって同じように機会や脅威になるわけではない。
  不況という事実も全ての企業にとってマイナスに働くわけではなく、いち早く「低価格戦略」を取っていた企業にとってはまたとない好機になることもある。
  また、同じ企業においても、捕らえ方しだいで、機会は脅威になるし脅威は機会になる。たとえば、金融業界における「規制緩和」は、多くの金融機関にとっては脅威のように見える。しかし、見方を変えれば、規制の撤廃により自由な金利設定が可能になり、さらには、他業界への参入が可能になるわけで、これは機会と捉えられる。
  このような意味で「機会」と「脅威」は一つの事象の表裏である。  
  したがって、脅威と見える変化を発見したときは、これを機会と捉えられないかと発想することが大切である。

■K・S・Fの明確化


  前回は、自社の実態を把握するために、PPMによって検討した。大切なことは、現在は売上・利益の大きな「スター」や「金のなる木」があっても、将来が楽しみな「育成事業・育成商品」があるか否かが鍵だと延べた。
  変化の時代であり、事業や商品の栄枯盛衰も早い。それだけに現在は次々と新しい事業を創出していく能力が求められるのである。
  その新しい製品なり事業を創出するには、顧客の中心ニーズやその変化の方向を理解してかからなくてはならない。
  どのような業界にも「これは外してはならない」という、いわば鍵になる顧客ニーズがある。これを「K・S・F(キー・サクセス・ファクター=成功の鍵要因)」という。
  たとえば、再建途上のダイエーのような食品スーパーであれば、「鮮度」「品揃え」「安さ」は、絶対に外せないK・S・Fである。この一つでも不十分であれば、食品―パーとしては成功できない。バスや航空機のような運輸業なら、「安全性」「定時性」「快適性」がK・S・Fといえるだろう。
  このように、K・S・Fには、業界として外せない「業界K・S・F」がある。しかし、今日では、業界K・S・Fは必要条件ではあっても十分条件とはいえない。
  食品スーパーならば「鮮度」「品揃え」「安さ」の業界K・S・Fのほかに、他店にはない独自の魅力が必要になる。それは、「味の良い惣菜」であったり、「ずば抜けた接客」であったりする。これが「独自のK・S・F」である。
  あなたの顧客をの角度から分析すれば、どのような要求があるだろうか。
  運輸業なら「安全性」「定時性」「快適性」以外に何が求められているだろうか………。「専門性」「コンサルティング能力」「省エネ能力」「ドライバーの接客能力」など、種々考えられるであろう。
  このような顧客のニーズを掴み、その強い順番に、一つづつ強化していくことが重要である。そうして、たゆみなく強みを磨いていって、気がついたら他社を大きく引き離していたという状態に持ち込むことである。
  これが、「他社にはマネのできない強みを築く」という戦略である。  

■ポジショニングの構築


  「他社にはマネのできない強みを築く」というゴールに至るために、もう一つの検討課題がある。それは、「自社が持っている能力で、他社にはマネのできない強みを発揮できる舞台は何か」という角度からの検討である。
  仮に顧客があなたの商品Aを選んだとすれば、その理由は二つしかない。一つは「数ある商品の中でAがもっとも好ましいと思った」ということである。これを「マーケティング・ミックス」の勝利という。
  マーケティング・ミックスとは、4Pとも呼ばれ「製品開発」「価格設定」「流通チャネル計画」「販売促進」の四つの柱で構成される。この四ポイントの組み合わせが「商品化政策」である。それが成功した場面といえる。
  もう一つの購入理由は「自分のニーズに最も合致するのはAだと思った」ということである。これを「ポジショニング」の勝利という。ポジショニングとは、お客さまの心の中に、「他社にはマネのできないポジション」を作り上げることである。
  具体例で説明しよう。日清食品に「カップヌードル」というインスタントラーメンがある。これはアメリカにも進出して大成功しているが、最初、これをアメリカ人にどのような食べ物と理解させるのがよいのかと議論になった。
  結論は、「ヌードル(麺)」とするとやや特殊な食べ物となり、対象者が少なくなる。「スープ」と理解させればほとんどの人が対象者になり、スーパーでも広い売り場が獲得できる。そして「ヌードル入りスープ」という独自性も訴求できるという結論になった。
  このように、中身は同じものでも、お客様の心にどのように位置づけるかによって、まるで成績が変わるのである。「ヌードル入りのスープ」というポジションが、カップヌードルにとって「他社にはマネのできないポジション」だったのである。
  「他社にはマネのできない強みを築く」という戦略テーマに関して、K・S・Fで述べたように、「鍵になる顧客ニーズを的確に見抜いて誰よりも上手にそれを果たす」という能力が大事である。
  しかし、「他社にはマネのできない独自のポジションを獲得する」という、ポジショニング戦略も重要な戦略である。

 

≪図1 仮説検証型の経営を≫

■全員が戦略経営の体現を


  六回にわたって、経営理念から戦略について述べて来た。昨今、コンサルタントとして、強く感じるのは、「戦略経営」の不足である。「戦略経営」とは「経営戦略」とは違う。経営戦略とは、文字通り一つの戦略ということであるが、戦略経営とは、「社員全員があらゆる場面で常に戦略的に考え行動する」ということである。
  戦略的に行動するというのは、図1のように、環境変化は自分の周囲でどのような形で表れているのか、それをチャンスとして生かせないかと、鋭くアンテナを立てて行動することである。
  全員が、このような意識を持って行動する企業が伸びる時代である。高度成長期は「ビッグ・イート・スモール」と言われた。つまり、スケールメリットにモノを言わせて「大が小を食う」時代であった。現在の転換期および将来は、「ファースト・イート・スロー」と言われる。すなわち、「速い者が遅いものを食う」時代である。
  「速い者」とは、戦略経営を体現して、変化に合わせて小回りのきく革新企業をいう。ぜひ、新しい時代の覇者、革新企業として発展していただきたい。