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筆跡鑑定について

筆跡鑑定についてのアドバイス


根本 寛

皆様の係争は大部分が民事裁判です。民事裁判の目的は「正義や真実」を明らかにすることではなく 「私的紛争の早期解決」にあります。裁判所としては効率的に紛争が解決すればよいのです。
したがって受身的に対応するのであって、積極的に正義を追求してくれるわけではありません。自分の権利は自分で守らなければならないのです。
有効な筆跡鑑定が可能だったのに提出しないで敗訴した例もあります。「権利は闘い取らなければならない」という冷徹な現実を知って行動されることをお勧めします。


筆跡鑑定とは、複数の筆跡が同一人のものかを判定するもので、裁判でも効力が認められています。


私は、解説と図解をできるだけ1ページにまとめ、わかりやすく読みやすいすい鑑定書を目指しております。わかりやすい鑑定書は説得力を高め、裁判の透明性につながるものと考えております。

鑑定資料は、鑑定したい「鑑定資料」と、本人の筆跡と分かっている「対照資料」に区分されます。

対照資料はできるだけ次の要件を満たしているのが望ましいのです。
(この要件を満たしていないと鑑定できないというわけではありません)


@ 同一文字、同一書体(楷書・行書など)により比較対照ができること。
(同一文字がない場合は「へん」や「つくり」など部分によって対照します)


A その同一文字、同一書体の資料が、一つより複数あるほうが証明力が強くなります。


B 公的な文書だとか郵便局の消印のある手紙など、本人であることや、日時が証明できるものの方がより望ましいのです。


C できるだけコピーよりは本物、コピーならば鮮明なものが望ましいのです。


D 対照する文字は「漢字」「かな」「カタカナ」「数字」「アルファベッド」などすべて対象にいたします。

筆跡は、文字を書くという行動の結果残された「行動の痕跡」です。行動には必ずその人特有のパターンがあるように、筆跡にも長年かかって身についたその人特有の癖(固有筆癖)があります。

固有筆癖は、本人も気がつかない非常に微妙な部分を含んでいますので、他人の字を偽造したり、自分の字を隠して書こうとしてもプロの目を欺くことは出来ないのです。

遺言書などで、不幸にして身内で意見が対立しているときは、早めに鑑定人の鑑定を受け真実を明らかにらにすることが、将来に禍根を残さない良策です。ご協力をして喜んでいただいております。

事前調査とは、鑑定に先立ち、第一に「鑑定結果の方向」、第二に、「鑑定結果は「断定」なのか、「可能性大」なのか、「可能性あり」なのかといった判定レベルの面」の二点を調査し、鑑定に要する日数をベースに料金の見積りをすることです。この事前調査は、仮に現状は「簡易鑑定」のご予定であっても、将来「本鑑定」の可能性もないとは言えないわけで、その場合結論が揺らぐようでは依頼者は困ります。したがって、簡易鑑定であっても、本鑑定と変わらないエネルギーと時間を投じて調査をいたします。そのため、鑑定に進まない場合は「事前調査料金」として3万円を頂いております。(鑑定書作成に進む場合は事前調査料金は不要です)
 この「事前調査」と同じことを「簡易鑑定」として、もっと高額の料金で行っている鑑定人もおりますので、ご依頼の際はよくご確認のうえお進めください。

簡易鑑定についてのご注意

簡易鑑定は関係者が納得できることを目的とするもので、裁判の資料とはしないために「鑑定書」が多少簡略化されますが、調査そのものを簡易にするわけではありません。具体的には、たとえば、本鑑定書が16文字を検証し鑑定書を作成するのに対して、納得できる結論が得られれば5文字で終了するというような形になります。そのため、費用が本鑑定の半分程度で済むということになるわけです。これは私共の方法です。
 しかし、「簡易鑑定書」というものに決まった形があるわけではありません。簡易鑑定に関しては結論を示すだけで「一切根拠の説明はしない」という鑑定人もいます。ご依頼の際はよくご確認のうえお進めください。

筆跡鑑定の基礎知識

 筆跡にはその人特有の「筆癖」があります

 筆跡とは人が文字を書くという行動の結果残された「行動の痕跡」です。人には必ずその人特有の行動のパターンがあるように、筆跡にも長年かかって身についた筆癖(筆跡個性)があります。その筆癖は習慣化され、無意識のうちに表出するもので、本人も気がつかないような非常に微細な部分を含んでいます。この筆癖は、繰り返し安定的に表れますので、これを「筆癖の恒常性」と呼んでいます。


 ほとんどの偽筆は見破ることができます

 他人の筆跡を偽造したり、自分の筆跡を意図的に変えて書こうとしても、目についた大きな特徴はある程度偽造することは出来ますが、微細な部分には気がつかないこともあり、また画数の多い文字は最後まで意識でコントロールすることが困難になることもあって随所に本人の筆癖が顔を覗かせてしまうものです。
 したがって鑑定の精度を高めるためには、目立つ大きな筆癖だけでなく、一般に気がつかないような微細な筆癖に着目して精密に対照検証を行うことが大切になります。

 筆跡には「個人内変動」があります

 筆癖には恒常性があるといっても、生きた人間が書くのですから印鑑のようにぴたりと一致するわけではありません。必ずある程度の変化の幅があります。その変化の幅を「個人内変動」と呼びます。
 したがって、対照検証する場合、一致した部分についてはそれが「同一人の恒常性のある筆癖の一致」なのか「別人の偶然の一致」なのか、異なった部分については、それが「別人なるが故の不一致」なのか、「同一人の個人内変動の範囲」なのかを峻別することが重要になります。


 できるだけ複数の文字で比較検証することが大切です

 鑑定精度を高めるためには、同一文字をできるだけ複数個調査することによって、「個人内変動の幅」を把握することが鍵になります。複数のデータでなけれけば統計的な裏づけが得られないからです。また、筆跡は、一文字中のある部分に限って見れば別人でも一致することはありますが、その部分が組み合わされた文字全体として一致するということはほとんどないのです。したがって、部分的な精密調査と同時に組み合わされた全体を見る視点が大切になります。

 分かりやすい鑑定書を目指しています

 一般に、鑑定書は本文(言葉による説明)と図解説明が離れて編集されることが多く、照合しながら読み進めるため難渋することが少なくありません。また、難しい専門用語が多用され、そのため理解に苦しむことも少なくありません。当職は、関係者の負担を軽減し「誰にも分かる鑑定書」をモットーとしています。そのため、できるだけ一文字の分析は図解と説明を1ページにまとめ、見やすく理解しやすい鑑定書を目指しております。

筆跡鑑定のQ&A

鑑定の対照資料はどのようなものがよいのですか。

できるだけ「公的な資料」や「消印のあるはがき」、あるいは「日付のついた手帳や日記帳」など、本人であることや日付が証明できるものが望ましいのです。日付のないメモなどですと相手から「本人とは認められない」などとの言われる恐れがあるからです。

対照する同じ文字がないのですが、どうすればよいですか。

鑑定は、本来「同一文字・同一書体」で対照するのが原則ですが、同じ文字がない場合は、たとえば「へん」や「つくり」など文字の共通する部分を使って調査いたします。ですから、資料としては、日記など文字が沢山あるほうがよいのです。

事前調査は何日ぐらいかかりますか。

書類を頂いてから2日程度でお返事します。

私は九州に住んでいますが、横浜という離れたところの先生にお願いしても困ることはないのでしょうか。

私は北海道の方から沖縄の方まで仕事をさせて頂いておりますが全く問題はありません。弁護士さんですと、お会いしての打ち合わせがあるでしょうからあまり遠いと具合がわるいかも知れませんが、筆跡鑑定は書類を郵便または宅配便でやり取りし、多少の打ち合わせは電話で十分できますので、とくにお困りになることはないと思います。しいて言えば、裁判で相手方から証人として喚問を受けたりすると、交通費がかかることぐらいでしょうか。
しかし、しっかりした鑑定書を書いていれば、そのようなことはめったにありません。私は相当数の鑑定書を書いていますが、いままでに証人喚問を受けたことはありません。

裁判で相手側が反対の鑑定書を出してきたらどうなるのですか。

二つの相反する鑑定書がぶつかった場合、裁判長の判断で、どちらかを棄却 してどちらかを採用するケースもあります。三番目の鑑定人に鑑定を依頼するケースもありま す。いずれも裁判長の判断によります。私は年に7〜8回は他の鑑定人と対決するケースがありますが、幸い今までに 負けたことはありません。

知人が誤った鑑定書をもとに裁判をして、敗訴し大変困ったことがあります。そのようなことにならない正しい依頼の仕方を教えてください。

確かに鑑定人も神様ではありませんから、誤りが無いとはいえません。鑑定人の実力については私の立場からは申し上げられません。ただし、鑑定結果が白だろうと黒だろうと、依頼人の望むとおりの鑑定書を作る鑑定人は良い鑑定人とはいえません。鑑定人は技術者として常に公正を旨として行動するべきです。
私のところへのご相談では、4割程度の方は望んでいる方向と異なります。その場合、私はその旨をよく説明してお断りいたしております。    
したがって、すくなくともこの意味での間違いを防ぐには、鑑定人に資料を提示する段階では、自分の望む方向は伏せて、「所見を聞かせてください」と質問すると良いでしょう。
もちろん、所見を聞かせてもらうには有料ということもありますが、ご質問のケースのような誤りを防ぐことからみれば安いものだと思います。

事前調査は無料となっていますが、「鑑定に進まない場合は3万円を負担してください」となっています。相談するだけでお金がかかるのですか。

筆跡鑑定とは、文字を一つひとつ調査・分析していき、その結果として判定するものです。ですから事前に結果を推定するのは、鑑定人としては好ましいことではないのです。しかし、現実には、鑑定結果が依頼者の期待している方向と違うということもあります。その場合、依頼者としては、安くはないお金をかけて希望していない鑑定書ができても困ります。   
そこで、当方ではあえて「事前調査」をして、方向性を確かめた上で鑑定に進むというステップにしています。この事前調査というのは、それなりの時間をかけて鑑定の一部を行うことなのです。そのため、鑑定書作成に進まない場合は3万円のご負担をお願いしております。   ただし、まれには、事前調査では判断が困難で、鑑定をしないと結論が出せない場合もありますのでご理解をお願いします。

「判定のレベル」というのはどういうことですか。

判定のレベルというのは、@「○○である」という断定、A「○○の可能性が高い」というレベル、B「○○の可能性がある」というレベル、C「判定不能」というレベルの4種類があります。

壁に書かれた中傷の文字なども鑑定できますか。

できるだけ鮮明に写真にお取りになり、はがきサイズくらいにプリントしてお送りいただければ対応できます。歪まないように撮影するようご注意ください。

「簡易鑑定」でも結論だけでなく判定の根拠の説明がつくのですか。 

当方では「簡易鑑定」でも最低4文字程度は、図解説明をつけてご報告いたします。要はご納得いただけるだけの内容にすることを基準にしています。

他人が手を添えた署名は有効ですか。 

 署名の条件は@文字を知っていること、A文字を書けること、の2条件を満たしていれば成立します。だから、たとえば盲目の人でもこの条件を満たしていれば有効です。その際、他人の手で署名すべき位置へ手を運んでもらっても良いわけです。ただし、署名が他人によって手を動かされていると認定されると無効になります。

認知症などで震えた筆跡も鑑定できますか。 

 認知症や脳梗塞などで大きく震えた筆跡や崩れた筆跡など、健常時と字形が相当に異なっていても鑑定は可能です。書き手固有の運筆癖などで調査するからです。医師の先生の意見が否定的であってもまずは相談してみてください。

コンピュータを使った筆跡鑑定は、今までの人間が判断する方式よりも鑑定レベルは高いのですか。

コンピュータを使う方式というのは、私の知る限り縦横に細かく網目を描き、そこに文字を当てはめて字形を捉え、「多変量解析法」の理論などにより異同を判断するようですが、私の経験では、現在では人間の観察力を上回ることはできないようです。なぜなら、筆跡鑑定とは、単純に「字形の異同を調べるものではない」からです。人間の書く文字には「個人内変動」と呼ぶ書くつどの変化があり、また、その人固有の個性があります。筆跡鑑定とは、その「個人内変動と個性を組み込んで判断する」ことなのです。つまり、そうして「書き手を識別する」のが筆跡鑑定の最終的な目的です。現在、この微妙な判断はコンピュータには困難な様子です。

「筆跡心理学を援用して‥‥‥」という説明がありますが、どのようなもので、どのような効果があるのですか。

「筆跡心理学」は、まだわが国ではオーソライズされているとはいえませんが、欧米では「グラフォロジー」と呼ばれ、100年以上の歴史を持つ学問です。フランスではこの分野の専門家は弁護士さんなどと並ぶ国家資格者です。「書いた文字から書き手の性格を理解する」ことが中心です。私は、16年ほどこの分野を研究し、わが国における第一人者の一人と自負しております。この能力を筆跡鑑定に応用すると、筆跡を見てどのような性格であるかがある程度わかりますから、書き手を識別するうえで非常に有効です。ただし、まだ、公的に認められているとは言えませんので、判断に使うだけで鑑定書には記載することはいたしません。

「対照資料が35歳のときのもので40年以上前のものになります。このくらい年月の経ったものでも使えるでしょうか」

文字の「経年変化」というものは、ちょうど人間の顔のようなものです。たとえば、青年の頃の顔を知っている人は、その人が老人になっても見分けがつくものです。筆跡もよく似ていて、特に習字でも習わなければ、基本的な筆跡個性はそれほど変わらないものです。学生のころと社会人になってからは多少変化のある人はいすますが、おおよそ、30歳にもなれば筆跡はかなり固定していることが多いので、その対照資料は多分鑑定に使うことができるでしょう。

筆跡鑑定書は裁判でどの程度有効なのでしようか。

裁判で、ある筆跡鑑定書をどの程度重視するかは裁判長の「自由な心証」にゆだねられています(自由心証主義)から、鑑定人の立場で一律にどの程度有効であるということはできません。しかし、裁判といえども常識と別物ではないわけですから、誰がみても明々白々たる鑑定書が無視されるというようなことは考えられません。鑑定人としては、客観的で科学的な鑑定書にすることに努力することが本分と理解しています。なお、最高裁判所が筆跡鑑定について判断を示した事件があります。
これは、はがきによる脅迫事件に関し、被告側の弁護人が「鑑定人の伝統的筆跡鑑定方法は、勘と経験を頼りにした客観性・科学性のないもので証拠として価値がない」と主張して上告した事案に対する最高裁の判断です。

「いわゆる伝統的鑑定方法は、多分に鑑定人の経験と勘にたよるところがあり、ことの性質上、その証明力には自ずから限界があるとしても、そのことから直ちに、この鑑定方法が非科学的で、不合理であるということはできないのであって、筆跡鑑定におけるこれまでの経験の集積と、その経験によって裏付けられた判断は、鑑定人の単なる主観にすぎないもの、といえないことはもちろんである。したがって、事実審裁判所の自由心証によって、これを罪証に供すると否とは、その専権に属することがらといわねばならない(後略)」
[ 最高裁判所昭和41年2月21日 第二小法廷決定  昭和40年(あ)第238号脅迫被告事件 ]

この判決に関しつぎのような解説もなされています。
「伝統的筆跡鑑定方法は、勘と経験を頼りにしていると言われるが、それは、科学的分析によって十分に理論化されていないため数値などの客観的表現を用いて論証できないにとどまり、筆跡個性の特定、比較、判定基準の各プロセスは実質的には相当に合理性を備えていると考えられる(後略)」
                        [藤原藤一 検事 ジュリストより]

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